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39 市振

39 市振(いちぶり)


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親不知子不知 市振の関

原文


今日(きょう)は親しらず子しらず・犬もどり・駒返(こまがえ)しなどいふ北国一(ほっこくいち)の難所(なんじょ)を超(こ)えてつかれはべれば、枕(まくら)引(ひ)きよせて寐(ね)たるに、一間(ひとま)隔(へだ)てて面(おもて)の方(かた)に若(わか)き女の声二人(ふたり)ばかりと聞こゆ。

年老(としおい)たる男(おのこ)の声も交(まじり)て物語(ものがたり)するを聞けば、越後(えちご)の国新潟(にいがた)といふ所(ところ)の遊女(ゆうじょ)なりし。

伊勢(いせ)参宮(さんぐう)するとて、この関(せき)まで男(おのこ)の送(おく)りて、あすは古郷(ふるさと)にかへす文(ふみ)したためて、はかなき言伝(ことづて)などしやるなり。

「白浪(しらなみ)のよする汀(みぎわ)に身(み)をはふらかし、あまのこの世(よ)をあさましう下(くだ)りて、定(さだ)めなき契(ちぎ)り、日々(ひび)の業因(ごういん)いかにつたなし」と、ものいふを聞く聞く寝入(ねいり)て、あした旅立(たびだつ)に、我々(われわれ)にむかひて、「行衛(ゆくえ)しらぬ旅路(たびじ)のうさ、あまり覚束(おぼつか)なう悲(かな)しくはべれば、見えがくれにも御跡(おんあと)をしたひはべらん。衣(ころも)の上の御情(おんなさけ)に、大慈(だいじ)のめぐみをたれて結縁(けちえん)せさせたまへ」と泪(なみだ)を落(お)とす。

不便(ふびん)のことにははべれども、「我々(われわれ)は所々(ところどころ)にてとどまる方(かた)おほし。ただ人の行(ゆ)くにまかせて行(ゆ)くべし。神明(しんめい)の加護(かご)かならずつつがなかるべし」といひ捨(すて)て出(い)でつつ、哀(あわ)れさしばらくやまざりけらし。

 
  一家(ひとつや)に 遊女(ゆうじょ)もねたり 萩(はぎ)と月

曽良(そら)にかたれば、書(かき)とどめはべる。

[おくのほそ道,新潟県,糸魚川市,市振,39 市振]

最終更新時間:2010年02月21日 10時25分42秒